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ダンスをするだけで決して独りじゃないという話

これはダンスが苦手の冴えないおっさんが心の底から感動して改心したという壮大でスペクタクルな叙情詩である。

学校の授業で男子は柔道と組体操、という時代に生まれた私はそもそもダンスへの免疫がこれっぽっちもない。40年も生きているとこれまでさすがに何度か誘われたりする機会があったが、その時はいつも高倉健さんを真似て「自分、不器用ですから…」と全力で逃げてきた。誘った方は当然「なんだこいつ…」と思ったに違いない、いまさらですがスミマセン。

とりわけダンスはキラキラしていて私には眩しすぎるのである。ちなみにラジオ体操は比較的好きである。

そんな私がNECの公開空地で行われた青空ダンス(コンテンポラリーダンス)の取材だけでなく、実際に踊ることになったのはダンサンブル代表の藤平さんの屈託のない満面の笑顔と学生から80代の方まで参加している懐の広さで『ここならこんな私でも居場所があるかも』と素直に思えたからである。

実際参加した際、私はほどなくフワフワとした心地よい感覚に包まれた。空地の木々の木漏れ日があふれる中、年齢や経験も関係なく、参加者はまさに自由に体を動かす。『ダンスはリズミカルに、そして正確に踊らなければいけない』。そのような私の先入観が徐々に解放されていく。果たしてダンスと言えるのかも怪しい動きをひたすらぎこちなく繰り出す私だが、不思議と恥ずかしさはない。

『まちがいって、その場にいる人が受け入れてしまえば、まちがいじゃなくなるんだ』

注文をまちがえる料理店(注文をとるホールスタッフが全員認知症の方)を企画した小国士郎さんがインタビューで答えていた台詞を踊りながらふと思い出す。

そのままノリノリで踊っているうちに、頭の中をとある曲がリフレインしはじめた。

『ミミズだって オケラだって アメンボだって〜♩』

アンパンマンを生み出した、やなせたかしさんの名曲「手のひらを太陽に」。もう何十年も歌ったことのないこの曲がとつぜん脳内に流れてきて驚き桃の木山椒の木(これも古っ)。

『ぼくらはみんな生きている 生きているから かなしいんだ』

あらためて歌詞を追うと深い…これが童謡だとは。明るいメロディーに夢中で幼い頃は無邪気にひたすら絶叫していた私。猫や犬じゃなくてミミズやオケラってところがもう…人間社会でも共感されにくい人が、時に最も助けを必要としているから。

足元の雑草や風の音、空気の匂い、空に広がる青が、解放してくれたような感覚。何かに属している感じ、けれども束縛されていない自由。

人間の根源的な二つの欲求は、翼をもつことの欲求と、根をもつことの欲求だ。

真木悠介『気流の鳴る音』(ちくま学芸文庫)Kindle版、2003年、P126。

社会学者の見田宗介氏(真木悠介はペンネーム)の言葉「翼をもつこと」と「根をもつこと」。翼を「自由」、根を「つながり」とするならば、自由とつながりの両方を求めるのは一見矛盾しているように思えてしまう。つながりたいけれどもしがらみは嫌。人はいつだって贅沢だ。

<根をもつことと翼をもつこと>をひとつのものとする道はある。それは全世界をふるさととすることだ。

真木悠介『気流の鳴る音』(ちくま学芸文庫)Kindle版、2003年、P128。

矛盾を乗り越えるために見田氏が出した結論。私は上記の文章が大好きだ。ダンサンブルさんのもつ世界観のおかげで少しばかり解像度が深まった気がする。

特別なことではなく、ただその場にいて体を動かすだけで、表現する楽しさ、つながっていることを実感できる場。どんな人でも参加でき、ほんの少しでも気にかけてくれている人がいて、笑顔でまたね、と別れるだけの優しい場。

ありそうでない、身近にこんな素敵な場所があるなんて…と素直に感動。

踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々♩

※開催日時等の詳細はダンサンブルさんに直接お問い合わせください。


<この記事を書いた人>
散歩主/市民文化局コミュニティ推進部
うどん県の山奥出身。
区役所での地域みまもり支援センターなどの勤務を経て、本部署勤務となる。趣味は本を読むこと。
座右の銘は「足るを知る」「上善水の如し」。憧れの人は老子で、無為自然な生き方を目指している。最近糖質量が気になっており、audiobookを聴きながら散歩に勤しんでいる。マンションが好きで、散歩中に通りがかる度にニヤニヤしてもっぱら怪しまれている(らしい)。

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