「お笑い」で日本を元気に! 国際夫婦漫才コンビ「フランポネ」
この記事は、2023年2月21日に協働・連携ポータルサイト「つなぐっどKAWASAKI」で公開されていたものを転載したものです。
日本で唯一、フランス語で夫婦漫才ができる吉本興業所属の「フランポネ」。芸人の視点で日本を元気にする仕組みを考え、お笑いを通じてマイノリティに対する偏見や差別、教育格差、貧困などの社会問題を、ソーシャル・ビジネスとして解決することを目指しています。
(取材日:2022年12月28日)
「フランポネ」の成り立ち
コンビ名の「フランポネ」は、フランス語を意味する「Français(フランセ)」と、日本語を意味する「Japonais(ジャポネ)」の組み合わせ。メンバーは、川崎市中原区で生まれ育ったマヌー島岡さん(以下、マヌーさん)と、スイス人の妻シラちゃんです。
マヌーさんは日本語のほか、英語・フランス語・スペイン語・イタリア語・オランダ語と6カ国語で漫才を作ることができます。大学在学中に、イギリスに2年留学し、卒業後は旅行会社に勤務してお金を貯め、2002年からベルギー王立アントワープ大学院で学び、経済学修士号を取得。2003年から9年間ベルギーの日系企業での勤務を経て、2012年にシラちゃんと結婚して帰国。総合商社に入社し、ヨーロッパ各国を飛び回る商社マンとして働いていました。
スイス人のシラちゃんは2012年、結婚を機に来日。日本語学校に通いますが、文法を中心とした授業に疑問を感じていました。
2017年、夫婦で吉本興業が運営する芸人養成学校NSCに入学。
マヌーさん曰く、「アカデミック」から「バカデミック」へ、「商社マン」から「笑者マン(しょうしゃまん)」へ転身を図ります。
「漫才で覚える日本語」とは?
漫才で覚える日本語について、マヌーさんに教えていただきました。
「僕らは3年前から『漫才で覚える日本語』をはじめました。日本語学校で文法重視の授業に限界を感じたシラちゃんと、夫婦で吉本興業が運営する芸人養成所NSCに入学し、台本なしでしゃべる訓練を受けました。シラちゃんは一緒に漫才を作ることで日本語が話せるようになりました。その実体験が基になっています。
現在、日本には約280万人の外国人が暮らしていますが、なかには、日本語ができないためゴミの捨て方が分からない人や、日本人とコミュニケーションができない人がいます。その原因となっている外国人への日本語教育は、社会問題だと思いました。各所で開催する『漫才で覚える日本語』講座は、漫才を作りながら日本語を勉強するというプログラムです。市内では『川崎市国際交流センター』などで実施しています。
漫才作りは、コンビ名を決めるところからはじめます。コンビ名は、覚えやすい、インパクトがある、ちょっと変な名前、面白い名前が良いといわれています。コンビ名が決まったら基本的な挨拶の練習です。
『どうも、日本人のマヌーです』
『スイス人のシラちゃんです』
『コンビ名は フランポネです』
『よろしくお願いしま~す』
挨拶ができたら、次はネタ(やり取りや台詞などの総称)を入れて漫才を作ります。日常生活にある言い間違いや、聞き間違いを使えば簡単。例えば『囚人』と『主人』、顔の『鼻(はな)』を『穴(あな)』と言ってしまうなどで、3~4行の漫才ができあがります。
『今日のお昼は何を食べる?』
『ベジタリアンだから、やすいカレーにする』
『それ安い(やすい)カレーじゃなくて、野菜(やさい)カレーでしょ』
『さ』と『す』を言い間違えたのに対してツッコミはどんな間違いが起きたかを説明してあげます。それでひとくだり。
コンビ名を考える場面では、出身国、自分が好きなモノ、嫌いなモノを教え合ったり、家族の名前を出してみたり、互いの情報を共有します。一緒に作業することで、双方のバックボーンを理解し、コミュニケーションがはかれるようになりますよ」
「漫才で覚える外国語」は、国際交流への第一歩
シンプルな漫才でも、他言語で行うと何が笑いの障壁となるのか?マヌーさん曰く「漫才ネタをそのまま翻訳しても伝わりません。相手の国の習慣・宗教・政治にも寄せていかないと理解してもらえません」
複数人で英語の漫才を作り人前で発表すると、会話練習以上に学びが深まります。日本の学校で行われる英語教育の中ではまだ実践しているところは少ないですが、「フランポネ」は、日本全国の大学、高校、中学、小学校で「漫才作成講座」を行っています。国公立大学の異文化コミュニケーションの授業に登壇したり、文学部や社会学部で「英語での『MANZAI』作成」の特別講義を行ったりすることもあります。
2022年10月には、横浜市立大学国際教養学部が主催して「横浜SDGs漫才グランプリ2022」を開催。ゼミの学生と障害者の当事者団体のスタッフが出場し、6組の登壇者による漫才パフォーマンスを披露するもの。グランプリの開催に至る過程の7月26日に、学生と障害者が自分たちで考えた漫才ネタをプロに指導してもらいました。「フランポネ」と「藤田ゆみ」(吉本興行)さんが、改善点などをアドバイスしました。
マヌーさんによると、教育の場での「漫才作成」を推す3つのポイントは、「社会性」「事業性」「革新性」。誰もが簡単に参加することができ、特別な道具や場所を必要としない。広く世界に普及する可能性があり、新しく意外性に富み、面白い。
「身体ひとつあれば舞台に立つことができるのが、漫才。漫才は誰にでも作れます。劇場で笑いをとる仕事をするのが一般的なお笑い芸人ですが、『フランポネ』は、教育機関や学校、障害者施設でも活動しています。漫才作りを教えるときは『楽しさ』や『わかりやすさ』を重視しています」
マヌーさんは、お笑いによる更なる展開を考えている、と言います。
「障害者や外国人の支援活動はNPOが行う場合が多いのですが、利益を上げないことが大前提。僕らはNPOではなく将来的には会社組織を立ち上げ、得た利潤を必要な人に分配したいと考えています。もし助成金を30万円もらったとして、活動報告書に書かれた内容のことをやって終了では、資金を使い切ったその先がありません。
近い将来の夢は、『漫才大会D1グランプリ』を開催したい! D1グランプリのDは『ダイバーシティ=多様性』のことです。川崎市で開催するなら『市長賞』を作り、市長に審査もしてもらって、地元メディアで取り上げてもらう。市内の企業にもスポンサーになっていただき各社5~10万円出資。川崎市からも10万円ほど助成が欲しいですね(笑)。合計50万円程度で開催できますよ! 市内の聾学校、障害者施設に通う人、日本語教室に通う外国人が参加する、川崎発の『マイノリティのお笑いコンテンツ』を創りたい。
2022年の在留外国人数は、約296万人(2022.10月出入国在留管理庁発表)、障害者は963万人。障害者が作った漫才を披露すれば、コミュニケーション能力の証明となり、雇用につながると言われています。マイノリティという言葉で連想するイメージがあるなら、それを大きく変えられると思っています。日本に住むマイノリティと一緒にお笑いをやったら皆が笑顔になりますよ。日本に住む全てのヒトが笑顔になると、日本全体が元気になり、好景気となります。
昨今、多文化共生が叫ばれていますが、多文化共生に対応するコンテンツが『漫才』だと思っています。多方面への波及効果や、生まれる利益で地域を活性化できれば、賛同を得られると思っています。
2006年にノーベル平和賞を受賞した、バングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス博士が提唱する「ユヌス・ソーシャル・ビジネスの7原則」のなかに、『Do it with joy 楽しみながらやる』という項目があります。難しい顔で社会問題を語っていてもだめ、ユーモアを交え、楽しく、笑いながら継続的に活動することが大切です。僕らフランポネの目標は、『お笑いの力で社会と平和に貢献』することです!」
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吉本興業所属タレント プロフィール
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