何でも話して! 近所のおばちゃんはプロの助産師。オリーブ母子相談室
この記事は、2023年2月4日に協働・連携ポータルサイト「つなぐっどKAWASAKI」で公開されていたものを転載したものです。
新しい命を迎えるお母さんやご家族のかかりつけ助産院として、地域とつながるオリーブ母子相談室。開業して22年。何万人ものお母さんの心と体のケアをしてきた、オリーブ母子相談室の院長で助産師の栁澤裕美(やなぎさわ ひろみ)さんにお話を伺いました。
(取材日:2022 年 12 月 28 日)
助産師になったのはいつからですか
22歳の頃です。国家資格取得後、生まれ育った熊本から東京に出て大学病院で働きました。そこは救急病院で、救急搬送や管理入院の患者さんが多く、正常なお産のほうが少ない場所でした。やがて正常で自然なお産の介助がしたいとの思いから、大学病院を辞めて川崎市内の病院の産婦人科病棟に移りました。多くのお産に関わり経験を積むことができました。結婚を機に退職しましたが、一女二男の出産をはさみながら個人病院や助産院などでお産や産前産後のケアを続けていました。
その後、2001年にオリーブ母子相談室を自宅に開設しました。年々相談も増え、10年目に仕事場を構えました。これまで「お産の場所としての助産院」はありましたが、このような「保健指導を行う助産院」として開業する人は当時いなかったので、市役所の職員の方々を戸惑わせながらも無事始動することができました。
オリーブ母子相談室を開いたきっかけを教えてください
私は30年前に母親になりました。生まれた娘はよく泣く子で、ずっと抱っこをしていました。
「娘が泣く理由は私の母乳が出ていないから⁈」 私は一人不安になりましたが、里帰り出産で娘を産んだ産院は遠く、当時の保健センターには母乳ケアがなかったため、誰かに相談したくてもできない日々を送っていました。
私は幸区南加瀬に住んでいましたが、近所の会館で民生委員や地域の方々が親子の集まる場をつくっていました。そこに立ち寄った際に、近所で助産院を運営していた助産師の先生に出会いました。私は自分の職業を隠して、その先生に抱えていた悩みを相談しました。すると、助産師先生はひょいと娘を抱き上げ、一言、「あんたさ、この子がおっぱい飲んでない子に見えるかい?」
私は、まるまるとして、肌はつややかでニコニコ笑顔の娘の姿を見て、「母乳は飲めている!娘が泣くのは私のせいではない」と理屈抜きで感じました。助産師先生は、娘の体重を測るわけでも私の乳房を診るわけでもなく、たった一言で母の気持ちを楽にしてくれました。勤務助産師だった私は「こんな支えかたもあるのだ!いつか地域のお母さんたちが気軽に相談に行ける場所をつくれたらいいな」と先の目標が見えた気がしました。
その後、子育てをしながら助産師として働きつづけ、3人目を出産してすぐに“今だ!”と、赤ちゃんだった次男を抱いて、開業届を出しに行きました。
助産師だって親になれば子育ては初めて通る道、困惑することばかりの素人です(笑)。
でもその時に感じた「こんな時どこに相談すればいいんだろう…」という困りごとが今につながっています。
相談室ではどのような相談が多いですか
やはり母乳の相談、ケアが多いですね。
母乳の事は妊婦さんの頃から知っておいて良い事だと思っています。乳房のケアや授乳の練習も出産前にやっておくことでイメージが湧きます。
産後は、授乳の練習、母乳分泌が少ない多い、乳房トラブル、卒乳断乳後のケアなど、個別対応を行います。
卒乳講座は人気ですね。いつまで飲ませたら良いの?どんなふうにやめたら良いの?ケアは受けたほうが良いの?などの質問が多いですね。講座では、母乳のやめかただけでなく、むしろやめるまでの自分の気持ち、子どもの思い、おっぱいとの向き合いかたを大切にお伝えしています。周りの意見や状況に流されることなく、お母さん・お子さんの気持ちを最優先にしてほしいですね。
そのほか、子育ての相談や夫婦の相談もありますよね
はい、あります。配偶者との関係性で悩んでいるお母さんも多くいます。「子どもはお母さんには笑っていてほしいと思う。我慢をするのではなく、あなたが笑えるためにはどうしたら良いかを考えてみませんか」とアドバイスしたこともありました。また、上の子をどうしても可愛がることができない、どうしたら子育てを楽しめるのか分からない、など数多くの相談を受けてきました。ここに相談に来て、泣いてしまうお母さんもいます。かなり子育てに行き詰まっているお母さんには、「感情が高ぶった時には一旦子どもから離れて、深呼吸をして、夜中でもいつでも私に連絡してほしい」と伝えています。
相談のほか、色々なイベントや講座も開いていらっしゃいますね
はい。ヨガのクラスも開講しています。私自身のヨガの経験から、深い呼吸や姿勢などには自律神経を整える作用もあり、お産に臨む妊婦さんに良いなと思い、マタニティヨガインストラクターの資格を取得しました。また、赤ちゃんの発達にも良いと考えベビーヨガインストラクターの資格も併せて取得し、月2回ベビー&ママのクラスを開催しています。お母さんがたの交流が生まれ、おしゃべりを楽しんでいる光景が大好きです。赤ちゃん同士もちゃんと交流していますよ(笑)
その他、子育て体験ができる両親学級も開講しています。これから赤ちゃんを迎えるお母さんとお父さんに、お産、夫婦、母乳、産後の生活、育児など様々なことをお伝えしています。
今後はどのような活動をしていきたいですか
「あの人になら何でも話せる!」と頼ってもらえるような、先生でも助産師でもなく、栁澤さんであれたらな、と思っています。
プロの知識を基にお母さんやお父さんを支えながらも、ずっと見守り続ける近所のおばちゃんに!
そして、オリーブ母子相談室を卒業したお母さんたちとずっとつながり続けたいので、今後は気軽に会える場所をつくりたいです。その場所で地元の子育てを応援して、地域の人々が自分の得意なことを発揮できるようにして…、とやりたい事がたくさんありますね。
もちろん今のオリーブ母子相談室も継続していきますよ!
私は、電話のご相談にきちんとしたお答えは難しいと感じています。お母さんとお子さんにお会いしてお話をして一緒に考えます。例えば、お子さんの成長は、体重増加の数字だけでなく、全体の様子や状態を拝見します。そのお子さんの健やかな「たたずまい」。身体は小ぶりでも健やかであれば、ミルクを足さず、母乳だけで十分な場合もありますからね。
この情報の時代、ネットで答えが見つかるものもあるかもしれないけれど、実際に見ないとわからない事がたくさんあります。かつて、私の娘を助産師先生が見てくれたように、多くのお母さんには、自分の話を聞いてくれて、わが子を見てくれる人に出会ってほしい、という思いです。あの助産師先生はもうこの世にはいらっしゃらないけれど、この地域の子育て応援をしている私の姿を、どこからか見ていてくださっていたらいいな、と思うのです。
この取組に関する問い合わせ
オリーブ母子相談室
電話:044-276-9603
Mail:olive.boshisodanshitsu@gmail.com
オリーブ母子相談室ホームページ
https://www.oliveboshi.com/